アサーションはじめの一歩

アサーションで「NO」を言える私になる:自分を肯定する勇気の育て方

Tags: アサーション, 自己肯定感, NOの言い方, コミュニケーション, 人間関係

「NO」と言えないという悩みは、多くの方が抱えているものです。頼まれごとを断れず、自分の時間や気持ちを犠牲にしてしまう。周りの期待に応えようとして、つい無理をしてしまう。なぜ、私たちは他人の要望に「YES」と言い続けてしまうのでしょうか。

その背景には、「嫌われたくない」「評価を下げたくない」「波風を立てたくない」といった様々な思いがあります。そして、こうした経験が積み重なるうちに、「自分の意見を言っても無駄だ」「私は我慢するしかない存在だ」と感じてしまい、知らず知らずのうちに自己肯定感が揺らいでしまうことがあります。

しかし、「NO」を適切に伝えるアサーションを学ぶことは、単に断る技術を身につけるだけではありません。それは、自分自身の気持ちやニーズを尊重し、大切にすることでもあります。そして、自分を大切にすることこそが、自己肯定感を育むことにつながるのです。

なぜ「NO」と言えないと自己肯定感が揺らぐのか

私たちは、他人の期待に応えようとして自分の気持ちを後回しにすると、無意識のうちに「自分の気持ちには価値がない」というメッセージを自分自身に送ってしまいます。 頼まれごとを断れずにキャパシティを超えてしまい、結果としてパフォーマンスが落ちたり、心身の疲労を感じたりすることも、自己に対する否定的な評価につながりかねません。 また、自分の意見や感情を表現できない状態が続くと、「自分は我慢するしかない存在だ」という無力感を感じやすくなり、これが自己肯定感を低下させる要因となります。

アサーションとは何か?自己肯定感との関係

アサーションとは、相手の権利や気持ちを尊重しつつ、自分の気持ちや意見、要求を率直かつ誠実に表現するコミュニケーションのスタイルです。攻撃的でもなく、受身的でもない、「自他尊重」の考え方に基づいています。

アサーションを実践することは、自分自身の感情や考えを認め、それを大切に扱うことと同義です。自分のニーズを正直に表現し、健全な境界線を引く練習は、「私は自分の気持ちを大切にする価値がある存在だ」という内的な感覚を強化します。 たとえ小さな「NO」であっても、自分の意思で選択し、それを表現できたという経験は、「自分にはできる」「自分の意見には意味がある」という肯定的な自己認識を育み、自己肯定感を高める力となります。

アサーションで自己肯定感を育む具体的なステップ

アサーションは、特別なスキルというより、練習によって誰でも身につけられるコミュニケーションの習慣です。自己肯定感を高めるために、まずは以下のステップから始めてみましょう。

ステップ1: 自分の気持ちやニーズを認識する練習

アサーションの第一歩は、自分が何を考え、何を感じているのか、本当はどうしたいのかを知ることです。「NO」と言いたいと感じているのは、無理だと感じているからなのか、他に優先したいことがあるからなのか、疲れているからなのか、自分の内側に注意を向けてみましょう。日記を書く、瞑想するなど、自分と向き合う時間を持つことが有効です。

ステップ2: 小さな「NO」を練習する

いきなり職場での重要な依頼を断るのが難しければ、日常生活での小さなことから始めてみましょう。例えば、興味のないSNSの投稿に無理に「いいね」をしない、気が乗らない誘いを断ってみるなどです。練習を重ねることで、「NO」を言うことへの抵抗感が減っていきます。

ステップ3: 「Iメッセージ」で気持ちを伝える練習

アサーションの基本は、「私は~と感じる」「私は~したい」という「Iメッセージ」で自分の気持ちや状況を伝えることです。「~すべきだ」といった批判的な表現や、「あなたは~しない」といった非難するような「Youメッセージ」ではなく、主語を「私」にすることで、感情や状況を客観的に伝えることができます。これにより、相手を責めることなく、自分の立場を理解してもらいやすくなります。

(例) 「その仕事を頼まれると、今日の定時までに完了させたい別のタスクに手が回らなくなるので、お引き受けするのは難しいです。」(状況と理由を説明) 「急なご連絡だったため、本日は残念ながら参加できません。また次の機会にぜひお声がけください。」(断りと代替案や次へのつながりを示す)

ステップ4: 相手の反応への心の準備

アサーションをしても、必ずしも相手が期待通りの反応を示すとは限りません。戸惑ったり、がっかりしたりする人もいるかもしれません。しかし、大切なのは、相手の反応をコントロールすることではなく、自分が誠実に伝えたかどうかです。相手の反応に一喜一憂せず、「自分は伝えたいことを伝えた」という事実に目を向けましょう。

よくある不安への対処

「NO」と言うことに対する不安は、多くの人が抱くものです。「相手に嫌われるのではないか」「自分の評価が下がるのではないか」という心配は自然な感情です。

しかし、考えてみてください。常に「YES」と言い続け、無理を重ねている状態が、本当に健全な人間関係や自己肯定感につながるでしょうか。アサーションは、相手を攻撃したり、無責任に断ったりすることではありません。自分も相手も大切にする、誠実なコミュニケーションです。

健全な人間関係は、お互いの意思や限界を尊重し合うことで成り立ちます。一時的に相手が戸惑うことがあったとしても、誠実に伝える努力は、長期的に見てより信頼できる関係を築く基盤となります。

また、「完璧なアサーション」を目指す必要はありません。最初は言葉に詰まったり、うまく伝わらなかったりすることもあるでしょう。それでも、「自分の気持ちを伝えようとした」という行動そのものが、自分自身を肯定する大切な一歩なのです。失敗を恐れず、小さな成功体験を積み重ねていくことが重要です。

終わりに

「NO」を言うことは、わがままや自己中心的であることではありません。それは、自分自身の心身の健康を守り、自分の価値観や目標を大切にすることです。アサーションを通じて、自分の気持ちに正直になり、それを表現する勇気を持つことは、自己肯定感を育み、より自分らしい生き方を送るための強力なツールとなります。

今日から、まずは小さなことから始めてみませんか。あなたの声には価値があり、あなたの気持ちは尊重されるべきものです。アサーションの第一歩を踏み出し、自分を肯定する勇気を育てていきましょう。