【自宅でできる】アサーション練習法:「NO」を言う自信を育む最初の一歩
NOが言えなくて疲れていませんか:アサーション練習の必要性
職場で頼まれごとを断れなかったり、友人からの誘いに乗り気でないのに「YES」と言ってしまったり。私たちは、自分の気持ちや都合よりも、相手の期待に応えることを優先してしまいがちです。その結果、心の中で「NO」と思っているのに「YES」と言ってしまい、後で後悔したり、心身ともに疲れてしまったりすることもあるでしょう。
なぜ、私たちは「NO」と言うのが難しいのでしょうか。それは、「相手に嫌われたくない」「自分の評価が下がるのが怖い」「波風を立てたくない」といった様々な不安があるからです。しかし、自分の気持ちを常に抑え込むことは、長期的に見れば自分自身を大切にできていない状態であり、健全な人間関係を築く上でも障害となり得ます。
アサーションは、「自分も相手も大切にする自己表現」のスキルです。このスキルを身につけることで、自分の意見や気持ちを正直に、かつ相手を尊重しながら伝えることができるようになります。しかし、「アサーションが大切だ」と頭では理解していても、実際にどうすればできるようになるのか、難しそうだと感じている方もいるかもしれません。
アサーションは、生まれ持った才能ではなく、練習によって身につけられるスキルです。自転車に乗ったり、語学を習得したりするのと同じように、繰り返し練習することで、少しずつ自然にできるようになっていきます。この記事では、特に「今日から」「自宅で」「一人でも」始められる、簡単で実践的なアサーションの練習方法をご紹介します。これらの練習を通じて、「NO」と言うことへの抵抗感を減らし、自分らしいコミュニケーションを自信を持って行えるようになるための一歩を踏み出しましょう。
なぜ「練習」が重要なのか:アサーションをスキルとして捉える
アサーションは単なる話し方のテクニックではありません。それは、自分の感情や思考、権利を認め、それを誠実に表現する姿勢そのものです。しかし、長年「NO」と言うのが苦手だったり、自分の意見を抑え込むことに慣れてしまっている場合、いきなり実際の状況でアサーションを実践するのは難しく感じられるかもしれません。
そこで重要になるのが「練習」です。脳科学の研究でも、新しいスキルを習得するには繰り返し実践することが有効であることが示されています。アサーションも同様に、練習を重ねることで、脳の回路が変化し、より自然にアサーティブなコミュニケーションが取れるようになります。
練習のメリットは以下の通りです。
- 実践へのハードルを下げる: 実際の対人場面でいきなり試すよりも、一人で練習することで失敗を恐れずに取り組めます。
- 様々な状況に対応できるようになる: 様々なシチュエーションを想定して練習することで、応用力が身につきます。
- 自信を育む: 練習を重ねることで、自分にはアサーションができるという感覚が育まれ、自信につながります。
- 自分のパターンに気づく: 練習を通じて、自分がどのような状況で「NO」と言えなくなるのか、どのような言葉を選ぶ傾向があるのかなど、自身のコミュニケーションパターンに気づくことができます。
アサーションは、身につければ一生使えるコミュニケーションスキルです。最初の一歩として、まずは自宅で、自分に合った方法で練習を始めてみましょう。
【今日からできる】自宅で一人で始めるアサーション練習法
ここでは、特別な道具や場所を必要とせず、自宅で気軽に始められるアサーションの練習方法をいくつかご紹介します。ご自身のやりやすい方法から試してみてください。
練習法1:自分の気持ちや意見を「言葉にしてみる」
日々の生活の中で感じる様々な感情や、物事に対する自分の意見を、意識的に言葉にしてみる練習です。
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方法:
- 書き出し: ノートやスマートフォンのメモ機能に、その時々に感じたこと(例:「あの時、私はこう感じた」「この件について、私はこう思う」)を書き出してみましょう。
- 声に出す: 一人の時に、感じたことや考えたことを声に出して言ってみましょう。「疲れたな、少し休憩したい」「この提案は少し違うと思うな」など、頭の中で考えていることを口に出してみるだけです。
- 日記: 毎日短い時間でも良いので、その日にあった出来事に対して自分がどう感じ、どう考えたかを記録してみましょう。
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目的: 自分の内面にある感情や思考を客観的に捉え、それを言語化する習慣をつけることです。「自分は今、こう感じているんだ」「これについて、自分はこういう意見を持っているんだ」と、自分の内側の声に気づき、それを表現する準備をします。
練習法2:鏡に向かって話すロールプレイング
具体的なシチュエーションを想定し、鏡に映る自分を相手に見立てて、実際に言葉にして話してみる練習です。
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方法:
- 「上司に急な残業をお願いされたとき」「友人から気が進まない誘いを受けたとき」など、実際にあなたが困ったことのある、あるいは困りそうなシチュエーションを一つ具体的に思い浮かべます。
- その状況で、自分がアサーティブに「NO」と伝えるとしたら、どのような言葉で、どのような表情で、どのようなトーンで話すかを考えます。
- 鏡の前に立ち、実際にその言葉を声に出して言ってみましょう。自分の表情や声のトーンを客観的に確認することができます。一度だけでなく、言い方を変えて何度か試してみましょう。
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目的: 実際のコミュニケーションに近い形でアウトプットの練習をすることです。自分の言葉遣いや非言語コミュニケーション(表情、声のトーン)を確認し、より効果的な伝え方を探求します。スムーズに言葉が出てくるようになるまで繰り返しましょう。
練習法3:具体的なシチュエーションでの「アサーティブな応答」を書いてみる
実際に「NO」と言うのが難しい具体的な場面を想定し、紙の上でアサーティブな応答を作成してみる練習です。
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方法:
- 「同僚から自分の担当ではない仕事を頼まれた」「家族から無理な頼まれごとをされた」など、具体的な場面を設定します。
- その場面で、自分がどのように感じているか(例:「今、自分の仕事で手がいっぱいだ」「その頼まれごとは、私のキャパシティを超えている」)を明確にします。
- 相手の状況や気持ちに配慮しつつ(例:「大変そうだね」「手伝ってあげたい気持ちはあるんだけど」)、自分の都合や限界を正直に伝えます(例:「ごめん、今抱えている仕事で精一杯なんだ」「申し訳ないけど、それは引き受けられない」)。
- 代替案があれば提示します(例:「〇〇さんなら手伝えるかもしれないよ」「明日なら少し時間作れるかもしれない」)。
- これらの要素を含めて、実際に言うであろうセリフを紙に書き出してみましょう。最初から完璧を目指さず、まずは自分の気持ちと伝えたいことを正直に書くことから始めます。
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目的: 頭の中で漠然と考えていることを言語化し、構成する練習です。状況に応じて、どのように理由を伝え、どのように断り、代替案を提示するか、といった具体的なステップを組み立てる力を養います。いくつかのシチュエーションで練習してみましょう。
練習法4:日常生活での「小さなYES/NO」を意識する
普段の生活の中で、些細なことから自分の好みや意見を選択し、表現する練習です。
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方法:
- レストランで注文する際に、何となくではなく本当に食べたいものを選ぶ。
- 服を選ぶ際に、流行だけでなく本当に着たいものを選ぶ。
- 友人との会話で、相手の意見にただ合わせるだけでなく、自分の正直な感想を伝える(例:「私は〇〇だと思うな」「△△はあまり得意じゃないんだ」)。
- コンビニでおすすめを聞かれた際に、自分の好みではない場合は丁寧に断る。
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目的: 「自分で選び、それを表現する」という経験を日常の小さな場面で積み重ねることです。大きな「NO」を言うための自信は、このような小さな自己主張の積み重ねによって育まれます。
練習を続けるためのヒントとよくある不安
練習は一度や二度で終わりではありません。継続することで、効果を実感できるようになります。しかし、モチベーションを維持したり、練習中に不安を感じたりすることもあるでしょう。
練習を続けるためのヒント
- 完璧を目指さない: 最初からスムーズにできなくても大丈夫です。少しずつでも、前より言葉にできた、考えを整理できた、という小さな変化を認めましょう。
- 小さな成功体験を積む: 上記の練習法で「今日は自分の気持ちを紙に書けた」「鏡の前で一回言ってみた」など、できたことを具体的に意識し、自分を褒めましょう。
- 練習時間を決める: 毎日5分でも良いので、練習する時間を習慣化すると続けやすくなります。
- 記録をつける: どのような練習をしたか、どんな気づきがあったか、少しでも実践できたことがあったかなどを記録することで、自分の成長を実感できます。
よくある不安とその乗り越え方
- 「練習しても、本当にできるようになるか不安」 アサーションは自転車の練習と同じです。最初から補助輪なしで乗れる人はいません。転んだり、うまくいかないこともありますが、練習を続ければ必ず乗れるようになります。焦らず、自分のペースで続けることが大切です。
- 「一人でやっているのが虚しい、これで合っているのか分からない」 このサイトの記事を読んだり、関連書籍を読んだりして、アサーションの基本的な考え方を定期的に確認しましょう。基本的な姿勢(自分も相手も大切にする)を忘れずにいれば、練習の方向性は間違っていません。もし可能であれば、信頼できる友人や家族に協力してもらい、短いロールプレイングを頼んでみるのも良いでしょう。
- 「実際に言うのが怖い気持ちがなくならない」 練習は、「言うことそのもの」へのハードルを下げるための準備です。怖さが完全になくなるわけではありませんが、練習によって「どんな言葉で伝えれば良いか」「どんな風に話せば角が立たないか」といった具体的な方法が分かるようになります。方法が分かると、未知への怖さが減り、少しだけ勇気が出やすくなります。まずはリスクの少ない小さな場面で試してみることから始めましょう。
まとめ:最初の一歩を踏み出す勇気
「NO」と言えない悩みを抱えているあなたが、この記事を読んでアサーションの練習に興味を持ってくださったこと、それ自体が大きな一歩です。アサーションは、あなた自身の心を守り、より健全な人間関係を築くための強力なツールになります。
今回ご紹介した自宅でできる練習法は、どれも今日からすぐに始められる簡単なものです。完璧を目指す必要はありません。まずは一つの方法を選び、数分でも良いので、毎日継続してみてください。自分の気持ちを言葉にしてみる、鏡に向かって話してみる、想定されるセリフを書き出してみる、日常生活で小さな選択を意識する。これらの小さな積み重ねが、確実にあなたのアサーションスキルを育んでいきます。
アサーションは、自分自身を大切にすることから始まります。練習を通じて、あなたの内にある正直な気持ちや意見に気づき、それを穏やかに、しかししっかりと相手に伝える力を養っていきましょう。「NO」と言うことへの抵抗感が減り、自分らしくコミュニケーションが取れるようになることで、あなたはきっと、今よりずっと心が軽やかになり、自信を持って日々を過ごせるようになるはずです。
さあ、今日からあなたのアサーション練習、始めてみませんか。