アサーションはじめの一歩

【入門】自分を大切にするアサーション:心軽やかに『NO』と言う始め方

Tags: アサーション, NOと言えない, 断り方, 自分を大切にする, セルフケア, コミュニケーション, 初心者

「NO」と言えないのは、自分を後回しにしているからかもしれません

あなたは、つい他者からの頼み事を引き受けてしまい、後で「やっぱり断ればよかった」「自分の時間がなくなった」と後悔したり、疲れてしまったりすることはありませんか。職場で上司や同僚から急な仕事を頼まれたとき、友人から無理な誘いを受けたとき、家族からの頼み事を断りきれないとき。そんな時、「NO」と言うことに罪悪感を感じたり、相手をがっかりさせたくない、嫌われたくないという気持ちから、自分の本当の気持ちや状況を抑え込んでしまうことがあるかもしれません。

これは決してあなたが悪いわけではありません。私たちは、協調性や他者を思いやる気持ちを大切にする文化の中で育ってきました。しかし、その優しさが行き過ぎると、自分自身の心や身体の健康、あるいは自分の時間やエネルギーを犠牲にしてしまうことにつながります。つまり、「NO」を言えない背景には、無意識のうちに自分を後回しにしてしまう癖があるのかもしれません。

この記事では、「NO」と言えないあなたが、自分を大切にしながら他者と良い関係を築くためのコミュニケーションスキルである「アサーション」について解説します。特に、「自分を大切にする」という視点からアサーションを捉え直し、心軽やかに「NO」と伝えるための具体的な始め方をお伝えします。

なぜ「自分を大切にする」と「NO」が言えるようになるのか

アサーションとは、相手の権利や気持ちを尊重しながら、自分の気持ち、考え、要求を率直かつ誠実に表現するコミュニケーション方法です。これは自己中心的になることとは異なります。自分のことも、相手のことも大切にする、対等な関係を目指すコミュニケーションです。

「NO」と言うことは、自分の時間、エネルギー、能力には限りがあること、そして自分の心身の健康を守ることのために、他者の要求にすべて応えることはできない、あるいは今は応えるべきではないという、自分自身の正直な状態やニーズを認めて尊重する行為です。つまり、「NO」と言うことは、まさに「自分を大切にする」ための大切な行動の一つなのです。

自分を大切にすることを意識することで、「他人からの評価を気にしすぎる」「嫌われるのが怖い」といった気持ちよりも、「自分の心身の健康を守ること」「自分の時間を有効に使うこと」に価値を見出せるようになります。その結果、必要だと感じたときに、心の中で罪悪感に苛まれながらではなく、自分自身のニーズを尊重した結果として、より自然に「NO」と伝えられるようになるのです。

自分を大切にするアサーションの基本原則

自分を大切にする視点からアサーションを実践するために、以下の基本原則を意識してみましょう。

  1. 自分の気持ちやニーズに気づく: まず、自分が今何を感じているのか、何を必要としているのかに意識を向けましょう。「疲れている」「気が進まない」「時間がない」といった素直な気持ちを自分自身が認めることから始まります。
  2. 自分自身を尊重する: 自分の気持ちやニーズには、他者のものと同じくらい価値があることを認めましょう。他者の期待に応えることと同じくらい、自分自身の幸福や健康も大切にする権利が自分にはある、と許可を与えます。
  3. 正直であること: 相手に対して誠実に、自分の状況や気持ちを伝える努力をします。ただし、これは攻撃的に正直になることではありません。配慮をもって伝えます。
  4. 責任を持つこと: 自分の言動には自分が責任を持つことを理解します。「〜せざるを得なかった」ではなく、「私は〜することを選びます」というように、自分の選択として伝えます。

これらの原則は、難しい理論ではありません。「あ、今、自分は無理しそうだな」「本当はこうしたいな」といった、日々の小さな心の声に耳を澄ませ、それを大切に扱うことから始まるのです。

心軽やかに「NO」と言うための実践ステップ

それでは、自分を大切にする視点を持って、「NO」と伝えるための具体的なステップを見ていきましょう。

ステップ1:自分の内側に意識を向ける

頼まれごとや誘いがあったとき、すぐに返事をするのではなく、数秒でも良いので間をおいて、自分の心身の状態を確認します。 「今、これをする時間や体力はあるか」 「この依頼は、自分が本当にやるべきことか、やりたいことか」 「引き受けることで、他に犠牲にするものはないか(自分の休息時間、大切な予定など)」 このように自問することで、自分の本当の気持ちや状況を客観的に把握することができます。

ステップ2:相手への配慮を示しつつ、断る意思を明確に伝える

いきなり「できません」と言うと、相手に冷たい印象を与えることがあります。まずは、依頼してくれたことへの感謝や、相手の状況への理解を示す言葉を添えましょう。その上で、「しかし」「申し訳ありませんが」といった接続詞を用いて、断る意思を明確に伝えます。あいまいな返事は避けましょう。

ステップ3:理由を簡潔に伝える(任意)

必ずしも理由を伝える必要はありませんが、簡潔に正直な理由を伝えることで、相手に納得してもらいやすくなります。この時、「自分を大切にする」という視点からの理由を伝えてみましょう。 例:「別のタスクで手一杯である」「その時間は休息を取りたい」「すでに先約がある」「これ以上引き受けると体調を崩してしまいそう」など。ただし、言い訳がましくならないように、シンプルに伝えるのがポイントです。

ステップ4:代替案を提案する(可能であれば)

関係性を維持したい相手や、協力したい気持ちはあるものの今回は難しい場合に有効です。「〇〇でしたら可能です」「△△さんにお願いしてみるのはいかがでしょうか」「また別の機会であれば喜んで」のように、可能な範囲で協力の姿勢を示すことで、完全に拒絶する印象を和らげることができます。

具体的なフレーズ例:

これらのフレーズはあくまで例です。大切なのは、これらのテンプレートをそのまま使うことではなく、あなたの「自分を大切にしたい」という気持ちを核にして、あなた自身の言葉で伝えることです。

「NO」と言うことへの不安とどう向き合うか

「NO」と言うことに対して、「相手に嫌われるのではないか」「自分の評価が下がるのではないか」といった不安を感じるのは自然なことです。しかし、長期的に見れば、無理をして引き受け続け、結果的にパフォーマンスが落ちたり、体調を崩したりすることの方が、かえって信頼を損なう可能性があります。

自分を大切にできる人は、自分のキャパシティを把握し、健全な境界線を引くことができます。これにより、引き受けた仕事や頼み事に対して、より質の高い対応ができるようになります。また、いつも「YES」という人よりも、必要なときにきちんと「NO」と言える人の方が、周りから信頼されるという側面もあります。相手はあなたの「NO」を通じて、あなたの状況や考えを理解し、あなたのことを一人の人間として尊重するようになるからです。

最初からスムーズに断れなくても大丈夫です。まずは、小さなことから練習してみてください。例えば、気が進まないお誘いを一つ断ってみる、あるいは頼まれごとに対して即答せず「少し考えさせてください」と保留してみるなど、できることから始めてみましょう。練習を重ねるうちに、心の中で感じる抵抗感が少しずつ和らいでいくのを感じられるはずです。

今日から始める自分を大切にする小さな一歩

アサーションは、特別な状況だけでなく、日々の生活の中で実践できます。そして、「自分を大切にするアサーション」は、自分自身の内面に意識を向けることから始まります。

これらの小さな一歩が、あなた自身を大切にすることにつながり、「NO」と言えない自分から、心軽やかに自分らしい選択ができる自分へと変わっていくための確かなステップとなるでしょう。

まとめ

「NO」と言うことは、自己中心的でも、相手を拒絶することでもありません。それは、あなた自身の心身の健康や幸福を尊重し、自分自身の価値を認めるための「自分を大切にする」行為です。そして、アサーションは、その「自分を大切にする」気持ちを、他者も尊重しながら表現するためのコミュニケーションスキルです。

最初から完璧を目指す必要はありません。この記事でご紹介したステップやフレーズを参考に、まずは身近な人との関係の中で、小さな「NO」や「私は〜」という表現から練習を始めてみてください。自分を大切にするアサーションを実践することで、あなたは心軽やかに、そして自分らしく、他者とより健全で対等な関係を築いていくことができるでしょう。応援しています。