空気を読みすぎても大丈夫:協調性を大切にするアサーション入門
空気を読みすぎて疲れてしまうあなたへ:協調性を大切にするアサーション入門
職場で、プライベートで、「つい場の空気を読んでしまい、自分の気持ちや意見を言えずに後で後悔する」といった経験はありませんか。頼まれごとを断れず、自分の仕事が増えてしまったり、会議で本当は伝えたいことがあるのに、何も言えずに終わってしまったり。
「空気を読む」ことは、良好な人間関係を築く上で大切なスキルの一つであるとされています。しかし、それを意識しすぎるあまり、自分自身を犠牲にしてしまうことは、心身の負担につながりかねません。
アサーションは、「相手も自分も大切にする自己表現」と定義されます。これは決して、場の空気を無視して一方的に自分の主張を通すことではありません。むしろ、相手の立場や感情を尊重しつつ、同時に自分の気持ちや意見も正直かつ適切に伝えるためのコミュニケーション手法です。
なぜ、私たちは「空気を読みすぎて」しまうのでしょうか
空気を読むことが得意な人は、周囲の状況を敏感に察知し、他者の感情や意図を推測することに長けています。これは、協調性や共感性が高いことの表れとも言えます。しかし、この能力が行き過ぎると、以下のような状態に陥りやすくなります。
- 「嫌われたくない」「波風を立てたくない」という強い気持ち: 自分の意見を言うことで、相手との関係性が悪化することを過度に恐れてしまう。
- 「自分が我慢すれば丸く収まる」という思考: 衝突を避けるために、自分の気持ちを抑え込むことを選びがちになる。
- 周囲の期待に応えようとする意識: 他者からの評価を気にしすぎ、本当の自分を出すことに抵抗を感じる。
こうした背景から、「NO」と言うことや、自分の意見を表明することが難しくなってしまうのです。そして、これが続くと、ストレスが溜まり、自分自身の価値を低く見てしまうことにも繋がりかねません。
アサーションは「わがまま」ではない
アサーションを学ぶ際に、「それは結局、自分の言いたいことを勝手に言うことではないか」「わがままになってしまうのではないか」と懸念される方がいらっしゃいます。しかし、アサーションはわがままとは全く異なります。
わがままな自己主張は、相手の気持ちや状況を顧みず、一方的に自分の要求を通そうとします。これでは、相手との関係性を損なうだけでなく、長期的に見れば孤立を招く可能性もあります。
一方でアサーションは、まず「相手の権利と自分の権利は同等である」という考え方を基盤としています。相手には自分の意見を言う権利があるのと同様に、自分にも自分の意見や気持ちを言う権利があります。その上で、相手を尊重しつつ、自分自身の正直な気持ちや要求を、攻撃的でもなく、しかし曖昧でもない、誠実な言葉で伝えることを目指します。
つまり、アサーションは「相手も自分も大切にする」ための、双方向的なコミュニケーションスキルなのです。空気を読む能力が高い人ほど、相手を大切にする視点を持っているため、この「相手も大切にする」アサーションの考え方をスムーズに習得できる可能性があります。
協調性を大切にしながら伝えるアサーションのコツ
「空気を読む」能力を活かしつつ、アサーションを実践するための具体的な考え方やコツをいくつかご紹介します。
1. 相手の状況や感情に配慮する一言を加える
アサーションは、必ずしもすぐに本題に入る必要はありません。相手の状況や感情を理解しようとする姿勢を見せることで、伝えたい内容が受け入れられやすくなります。
- 依頼を断る場合: 「〇〇さん、お忙しいところ申し訳ありませんが、今お願いされている件について、少しご相談させて頂いてもよろしいでしょうか。」「その件についてお役に立ちたい気持ちはあるのですが、今抱えている〇〇の対応に集中する必要がありまして…」
- 意見を述べる場合: 「今の〇〇さんのご意見、大変参考になります。それに関連して、一点別の視点から考えられることとして、〇〇という点はどうでしょうか。」「皆さんのご意見を聞いて、△△だということがよく分かりました。その上で、もしよろしければ私の考えも少しお話しさせて頂けますでしょうか。」
このように、相手への敬意や共感を示すクッション言葉を入れることで、伝えたい内容を和らげることができます。
2. 「I(アイ)メッセージ」で伝える
自分の気持ちや考えを伝える際には、「You(ユー)メッセージ」(「あなた〜すべき」「あなたは〜だ」)ではなく、「I(アイ)メッセージ」(「私は〜と感じる」「私にとって〜だ」)を使うことが推奨されます。
- Youメッセージ(避けたい表現): 「あなたはいつも急に仕事を頼むから困ります。」
- Iメッセージ(アサーティブな表現): 「急な依頼が続くと、今抱えているタスクの調整に少し困ってしまうことがあるんです。」
Iメッセージを使うことで、相手を責めるニュアンスを避けつつ、自分自身の状況や感情を正直に伝えることができます。これは、空気を読みすぎる人が陥りがちな「相手に原因がある」と考えつつも言えない、という状態から抜け出す手助けになります。
3. 具体的な代替案や理由を添える
「NO」と伝えるだけでなく、なぜ断るのかの簡潔な理由や、可能な場合の代替案を添えることで、相手は納得しやすくなります。これは、相手の要望を完全に無視するのではなく、可能な範囲で協調しようとする姿勢を示すことにつながります。
- 断る理由の例: 「締め切りが今日中の別の仕事がありまして」「今、すぐに判断できる情報がなく、確認に少しお時間を頂きたいです」
- 代替案の例: 「申し訳ありませんが、明日でしたら対応可能です」「〇〇さんにお願いするとスムーズかもしれません」「この部分は対応できますが、△△については難しいです」
ただし、嘘の理由を伝える必要はありません。正直かつ簡潔に伝えることが大切です。
4. 小さなYES/NOから練習する
いきなり重要な依頼を断ったり、大勢の前で意見を言ったりするのは勇気がいるかもしれません。まずは日常生活での小さなYES/NOから練習を始めるのがおすすめです。
- 友人からの軽い誘いに対して、行きたくないときに無理なく断ってみる。
- お店で、勧められた商品を「結構です」と断ってみる。
- 同僚からの簡単な頼みごとで、本当に時間がないときに「ごめん、今ちょっと手が離せなくて」と伝えてみる。
成功体験を積み重ねることで、自信を持って大きな場面でもアサーションを使えるようになります。
「NO」と言った後の不安にどう向き合うか
アサーションを実践しようとすると、「やはり相手に悪く思われるのではないか」「人間関係が悪化するのではないか」といった不安がつきまとうことがあります。
アサーションは、相手の感情をコントロールするための技術ではありません。あなたが誠実に伝えたとしても、相手がどう感じるか、どう反応するかは、残念ながら相手次第です。
しかし、アサーションを適切に使うことで、少なくとも「自分の伝え方に落ち度があった」という後悔を減らすことができます。また、長期的に見れば、お互いに正直な気持ちを伝え合える関係性は、表面的なものよりもはるかに健全で強い絆を生み出す可能性があります。
「空気を読みすぎる」あなたがアサーションを学ぶことは、周囲への配慮をなくすことではなく、その素晴らしい協調性を活かしながら、同時に自分自身も大切にするバランスを見つける旅です。無理なく、一歩ずつ、自分にとって心地よいコミュニケーションスタイルを模索していきましょう。
まとめ
- 空気を読みすぎることは、協調性が高い反面、自分自身を犠牲にする可能性があります。
- アサーションは、相手も自分も大切にする自己表現であり、わがままとは異なります。
- 協調性を大切にするアサーションでは、相手への配慮を示しつつ、Iメッセージで正直に伝えることが重要です。
- 具体的な理由や代替案を添えること、小さなことから練習することも効果的です。
- アサーションは相手の感情を保証するものではありませんが、健全な人間関係を築くための強力なツールとなります。
「NO」と言うことは、自分を大切にすることの第一歩です。そして、それは決して一人よがりな行動ではありません。アサーションという新しいコミュニケーションの方法を味方につけて、自分らしく、そして周りの人ともより良い関係を築いていくための一歩を踏み出してみましょう。