【最初の一歩】自分の気持ちを正直に伝えるアサーション基本と実践
自分の気持ちを伝えるのが苦手なあなたへ
「自分の気持ちや意見を正直に言うのが苦手だ」と感じていらっしゃるでしょうか。頼まれごとを断るのが難しいだけでなく、会議で発言するのをためらったり、友人との約束で自分の希望を伝えられずに相手に合わせて疲れてしまったり。場の空気を読みすぎるあまり、心の中に本音を閉じ込めてしまうことは、あなたの心身に大きな負担をかけているかもしれません。
しかし、無理なく自分の気持ちを伝え、同時に相手との良好な関係を築くための方法があります。それが「アサーション」です。アサーションは単に「NOと言う」技術ではなく、自分も相手も大切にしながら、正直に、率直に、かつ対等に自己表現を行うコミュニケーションの考え方とスキルです。
この記事では、「自分の気持ちを伝えるのが苦手」という悩みに寄り添い、アサーションの考え方に基づいた、具体的な伝え方と実践方法を分かりやすく解説します。今日から始められる小さな一歩を見つけてみませんか。
なぜ、自分の気持ちを伝えるのが難しく感じるのでしょうか
私たちはなぜ、自分の気持ちや意見を表現することに難しさを感じてしまうのでしょうか。背景にはいくつかの要因が考えられます。
- 相手に嫌われたくない、関係性を壊したくない:自分の本音を言うことで、相手を怒らせたり、がっかりさせたり、関係が悪化したりするのではないかという恐れがあります。
- 波風を立てたくない:衝突や議論を避け、平穏を保ちたいという気持ちが強く働くことがあります。
- 自分の意見に自信がない:自分の考えは重要ではない、間違っているかもしれないと感じ、発言をためらってしまいます。
- どのように伝えれば良いか分からない:感情的にならず、相手を傷つけずに伝える方法が分からず、結局何も言えなくなってしまいます。
- 過去の経験:以前、自分の意見を言ったことで否定されたり、傷ついたりした経験があると、次に伝えることを恐れるようになります。
特に職場では、「わがままだと思われたくない」「評価が下がるのではないか」といった不安も加わり、さらに気持ちを伝えづらいと感じるかもしれません。
アサーションとは?自分も相手も大切にする自己表現
アサーションは、自分自身の権利や欲求、意見、感情を、率直に、正直に、そして適切な方法で表現することです。同時に、相手の権利も尊重することを忘れません。
アサーションは、以下の3つのタイプの中間にあるコミュニケーションです。
- ノン・アサーション(非主張的):自分の気持ちや意見を抑え込み、相手に合わせてしまうタイプ。「NOと言えない」「自分の意見が言えない」のはこのタイプに含まれます。自分を犠牲にしてしまい、ストレスが溜まりやすい傾向があります。
- アグレッシブ(攻撃的):自分の意見や要求を、相手の気持ちや立場を無視して一方的に押し通すタイプ。短期的に目的を達成できることがあっても、人間関係を損ないやすい傾向があります。
- アサーティブ(主張的):自分も相手も尊重し、対等な立場でコミュニケーションをとるタイプ。自分の気持ちを正直に伝えつつ、相手の意見にも耳を傾けます。
アサーションは、このアサーティブな状態を目指すものです。自分の気持ちを伝えることは、わがままや攻撃とは異なります。それは、自分自身の価値を認め、心身の健康を保つために必要な自己尊重の行為なのです。
自分の気持ちを伝えるアサーションの基本原則
アサーションで自分の気持ちを伝える際には、いくつか基本的な考え方があります。難しい理論ではなく、実践的なポイントとして捉えてみてください。
- 正直さ:自分の内にある感情や意見を偽りなく表現します。
- 率直さ:遠回しすぎず、曖昧にせず、分かりやすい言葉で伝えます。
- 適切さ:状況や相手との関係性を考慮し、伝え方やタイミングを選びます。感情的に言い放つのではなく、冷静に、敬意をもって伝えます。
- I(アイ)メッセージを使う:「あなたは~すべきだ」「あなたはいつも~だ」といった相手を非難するような「You(ユー)メッセージ」ではなく、「私は~と感じます」「私は~してほしいと思います」といった「I(アイ)メッセージ」を使います。これにより、主観的な感情や考えを伝えつつ、相手を一方的に責めるトーンを避けることができます。
例えば、待ち合わせに遅刻した相手に対して、「また遅刻?あなたはいつも時間を守らないね!」と言う代わりに、「私は〇〇さんとの約束を大切に思っているので、待っている間、少し心配になりました」と伝えるのがIメッセージです。事実(遅刻)、自分の感情(心配になった)、影響(約束を大切に思う)を冷静に伝える練習をします。
具体的なシチュエーション別:気持ちの伝え方フレーズ例
日常生活や職場でよくある場面を想定し、アサーションの考え方に基づいた気持ちの伝え方フレーズ例をご紹介します。あくまで例であり、状況や相手との関係性に合わせて調整することが大切です。
1. 職場での意見・提案
会議中や上司・同僚との会話で、自分の意見や提案を伝えたいけれど躊躇してしまう場面です。
- 意見を述べる
- 「〇〇について、私は△△と考えます。その理由は□□だからです。」
- 「今の××さんのご意見も理解できます。加えて、私としては△△の視点も重要だと感じました。」
- 「恐れ入ります、一点質問させていただけますでしょうか。先ほどの△△について、詳細を伺えますでしょうか。」
- 懸念点や反対意見を伝える(やわらかく)
- 「△△の方向性には大変賛成しております。一方で、一つ懸念しておりまして、□□の点がクリアになると、よりスムーズに進むのではないかと感じています。」
- 「素晴らしいご提案だと思います。もし可能であれば、コスト面についてもう少し詳しくお話を伺えますでしょうか。現状では少し負担が大きいのではないかと考えています。」
- 言い方のポイント:相手の意見をまずは受け止めたり、敬意を示したりするクッション言葉を入れると、受け入れられやすくなります。断定的な表現を避け、「~と思います」「~と感じます」といったIメッセージで伝えることを意識します。
2. 友人との計画調整
食事や遊びの計画を立てる際に、自分の希望を伝えられず相手任せにしてしまう場面です。
- 行きたい場所、やりたいことを伝える
- 「〇〇も良いね!もし良かったら、前から気になっている△△にも行ってみたいと思っているんだけど、どうかな?」
- 「この日は少し疲れてしまったから、ゆっくりできる場所がいいな。△△とか□□はどう?」
- 難しい、乗り気でないことを伝える
- 「誘ってくれてありがとう!〇〇、すごく楽しそうだね。ただ、その日は別の予定が入ってしまっていて、残念ながら今回は難しいんだ。また別の機会に誘ってもらえたら嬉しいな。」
- 「△△に行きたい気持ちはあるんだけど、最近少し出費が重なっちゃって、今回は遠慮しておこうかな。また近いうちにご飯でも行こうよ。」
- 言い方のポイント:まずは誘いや提案に感謝を伝え、「~したい気持ちはあるけれど」といった共感や理解を示す言葉を入れると、角が立ちにくいです。代替案を提示したり、別の機会を提案したりすることで、相手との関係性を大切にしていることを示せます。
3. 家族やパートナーへの要望・分担依頼
家事の分担や日常生活で、協力してほしいことを伝えたいけれど言い出せない場面です。
- 手伝いをお願いする
- 「いつもありがとう。実は少し手伝ってほしいことがあって。△△を手伝ってもらえると、私は□□の作業に集中できてとても助かるんだけど、お願いできる?」
- 「最近少しバタバタしていて、家事が回らなくなってきているんだ。もし良かったら、毎週□□のゴミ出しをお願いできないかな。」
- 困っていること、してほしいことを伝える
- 「〇〇(相手の行動)について、私は△△(自分の気持ちや影響)と感じています。もし可能であれば、今後□□のようにしてもらえると嬉しいです。」(例:「靴が玄関に出しっぱなしになっていると、私は躓きそうで危ないなと感じています。もし可能であれば、靴箱にしまってもらえると嬉しいです。」)
- 言い方のポイント:感情的にならず、具体的な行動と、それが自分にどう影響しているのか、どうしてほしいのかを落ち着いて伝えます。「あなたにばかり負担をかけている」など、自分を卑下したり、相手を責めたりする表現は避けます。
今日から始める!自分の気持ちを伝えるための実践ステップ
アサーションは、知識として知るだけでなく、練習によって身につくスキルです。最初から完璧を目指す必要はありません。小さく始めて、少しずつ慣れていきましょう。
- 自分の気持ちや意見に気づく:まずは、「自分はどう感じているか?」「本当はどうしたいか?」という内なる声に意識を向けましょう。日常の中で、「これは少し違うな」「こうだったら良いのに」と感じる瞬間に立ち止まり、自分の心を確認する習慣をつけます。
- 小さな場面で練習する:いきなり重要な場面でアサーションを試みる必要はありません。例えば、カフェで注文する際にいつもと同じものではなく、少し気になるものを頼んでみる。友人に「どこでもいいよ」と言う代わりに、「〇〇が食べたい気分かな」と軽く伝えてみる。このように、失敗しても影響の少ない小さな場面で、自分の気持ちを言葉にする練習を重ねます。
- 「Iメッセージ」を使ってみる:練習の際には、「私は~と思う」「私は~と感じる」というIメッセージの形を意識してみましょう。例えば、「この企画は難しい(Youメッセージになりがち)」ではなく、「私はこの企画を進める上で、~の点が少し難しいと感じています(Iメッセージ)」のように言い換えてみます。
- 伝え方の「型」を参考にする:上記のフレーズ例のように、シチュエーションに応じた伝え方の型をいくつか覚えておくと、いざという時に言葉が出やすくなります。「クッション言葉+Iメッセージ+要望(代替案)」のような流れを意識してみましょう。
- 完璧を目指さない:一度でうまく伝わらなくても、落ち込む必要はありません。アサーションは練習が必要ですし、相手もアサーションに慣れていないかもしれません。伝えようとしたこと、その一歩を踏み出した自分を褒めてあげてください。
自分の気持ちを伝えることへの不安にどう向き合うか
「でも、やっぱり怖い」「嫌われたらどうしよう」という不安は、当然の感情です。アサーションの実践に伴うよくある不安と、それに対する考え方を見てみましょう。
- 「相手に嫌われるのではないか」:あなたの正直な気持ちを伝えただけで関係性が壊れる相手は、対等な関係を求めていないのかもしれません。健康的で対等な関係では、お互いの気持ちを尊重し合うことが基本です。アサーションは、そのような健全な関係を築くためのコミュニケーションです。一時的に相手が戸惑うことがあったとしても、誠実な姿勢は伝わります。
- 「角が立つのではないか」:感情的に伝えたり、相手を非難するような言葉を使ったりすれば、角が立つ可能性はあります。しかし、アサーションは相手への敬意を忘れず、冷静に伝えることを目指します。伝え方を工夫することで、不要な衝突を避けることができます。最初は難しくても、練習によって適切な伝え方が身についていきます。
- 「うまくいかなかったらどうしよう」:最初からすべてがうまくいくわけではありません。練習が必要です。一度や二度、自分の気持ちがうまく伝わらなかったり、相手が期待通りの反応をしなかったりしても、それは失敗ではなく学びの機会です。なぜうまくいかなかったのかを振り返り、次に活かせば良いのです。
アサーションを実践することは、自分自身を大切にすることです。自分を抑え込み続けることは、自己否定につながり、長期的に見て人間関係や心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。少しの勇気を持って、自分の気持ちを表現する練習を始めてみましょう。
自分の気持ちを伝えることで得られるメリット
アサーションを通じて自分の気持ちを適切に伝えられるようになると、様々な良い変化が訪れます。
- 心身の負担軽減:言いたいことを我慢したり、不満を抱え込んだりすることが減り、ストレスや疲労が軽減されます。
- 人間関係の質の向上:正直で対等なコミュニケーションは、相互理解を深め、より信頼に基づいた関係を築くことにつながります。相手もあなたの考えを理解しやすくなります。
- 自己肯定感の向上:自分の気持ちや意見を表現し、それが受け入れられたり、建設的な話し合いにつながったりする経験を重ねることで、「自分の考えには価値がある」「自分は大切な存在だ」と感じられるようになります。
- より良い結果につながる:自分の要望や懸念を伝えることで、状況が改善されたり、自分が本当に望む結果に近づけたりする可能性が高まります。
- 時間やエネルギーの有効活用:不本意な頼まれごとを断ることで、自分の本当にやりたいことや、大切にしたい関係性のために時間やエネルギーを使えるようになります。
まとめ:アサーションで、あなたらしい一歩を
自分の気持ちを正直に伝えることは、決してわがままや攻撃ではありません。それは、自分も相手も尊重する、健康的で建設的なコミュニケーションのあり方です。
「NOと言えない」「自分の意見が言えない」といった悩みは、アサーションの考え方とスキルを学ぶことで、少しずつ解消していくことができます。完璧を目指すのではなく、まずは「自分の気持ちに気づく」ことから始め、日常の小さな場面で「Iメッセージ」を使って気持ちを表現する練習を重ねてみてください。
最初は勇気がいるかもしれませんが、アサーションはあなたの心を守り、よりあなたらしい人生を送るための強力なツールとなります。この記事が、あなたが自分の気持ちを大切にし、正直に伝える最初の一歩を踏み出すためのお手伝いになれば幸いです。