無理なく始めるアサーション:日常生活での小さなYES/NOの伝え方
あなたはもしかしたら、職場やプライベートで頼まれごとを断れず、引き受けては後で後悔したり、自分の意見を言うのが苦手で、言いたいことを飲み込んでしまったりすることが多いのではないでしょうか。場の空気を読みすぎてしまい、ぐったり疲れてしまうこともあるかもしれません。
「アサーションが良いらしい」と耳にしたことはあっても、いざ実践しようと思うと、「いきなりNOと言うのは怖い」「相手に嫌われたらどうしよう」「どうやって伝えたら角が立たないのだろう」と、なかなか最初の一歩が踏み出せないかもしれません。
大きな変化を求められると億劫に感じてしまうものですが、アサーションは何も、劇的に自分を変える必要はありません。まずは、日常生活の小さな場面で、無理なく実践できることから始めてみるのがおすすめです。この記事では、アサーション初心者の方が、今日からできる「小さなアサーション」の実践方法をご紹介します。
アサーションとは何か? 簡単におさらい
アサーションとは、「自分も相手も大切にした自己表現」のことです。自分の意見や気持ち、要求を正直に、率直に、そして相手を尊重しながら伝えるコミュニケーションの方法です。
アサーションというと、「NOとはっきり言うこと」だと捉えられがちですが、それはアサーションの一側面です。アサーションには、自分の要望を伝えたり、相手に感謝を伝えたり、同意や反対を表明したりすることも含まれます。重要なのは、相手を攻撃したり、あるいは自分を犠牲にしたりすることなく、誠実に自分自身を表現する点です。
なぜ「小さなアサーション」から始めるのが良いのか
「NOと言えない」悩みを抱えている方が、いきなり重要な場面でアサーションを実践しようとすると、大きなプレッシャーを感じてしまい、かえって挫折につながりやすいものです。
そこで有効なのが、「小さなアサーション」から始めるというアプローチです。
- 心理的なハードルが低い: 日常生活のささいな場面であれば、失敗しても影響が少ないと感じられ、試してみる抵抗感が和らぎます。
- 成功体験を積み重ねやすい: 小さなことでも、自分の気持ちを伝えられた、あるいは適切に断れたという成功体験は、自信につながります。この小さな成功体験が、次のステップへの意欲を高めてくれます。
- 習慣化しやすい: 毎日の中にアサーションを取り入れることで、特別なことではなく、自然なコミュニケーションスキルとして身についていきます。
日常生活での「小さなアサーション」具体例と伝え方
では、具体的にどのような場面で「小さなアサーション」を実践できるでしょうか。いくつかの例と、具体的な伝え方をご紹介します。
例1:職場での簡単な依頼や雑談
- シチュエーション: 同僚から、すぐに必要ではない簡単な頼み事をされた。
- 小さなアサーション: すぐに対応できない場合は、保留する、あるいは代替案を出す。
- 伝え方:
- 「教えてくれてありがとう。ただ、今抱えている仕事があるので、〇時以降でも大丈夫でしょうか。」
- 「確認して、改めてご連絡しますね。」
- 「申し訳ありません、今手が離せなくて。△△さんなら詳しいかもしれません。」
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ポイント: 完全に拒否するのではなく、「今すぐは難しい」「確認したい」など、クッション言葉を挟むことで、相手との関係性を保ちやすくなります。理由を簡潔に添えると丁寧です。
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シチュエーション: 休憩中に同僚から、あまり興味のない話題で長話に付き合わされそうになった。
- 小さなアサーション: 休憩時間を自分のために使うことを優先する。
- 伝え方:
- 「面白いお話ですね。ただ、少し休憩したいので、また後ほどお聞かせいただけますか。」
- 「すみません、少し読みたいものがあるので、ここで失礼しますね。」
- ポイント: 相手の話を否定せず、自分の状況や要望を静かに伝えます。
例2:友人からの誘い
- シチュエーション: あまり気が進まない友人からの遊びや食事の誘い。
- 小さなアサーション: 無理して参加せず、正直に断るか、別の機会を提案する。
- 伝え方:
- 「誘ってくれてありがとう!すごく嬉しいんだけど、その日は都合が悪くて。」(詳しい理由を言いたくなければ、単に「都合が悪くて」で十分です)
- 「楽しそうだね!ただ、最近少し疲れていて、今回は見送らせてもらおうかな。また次誘ってね。」
- 「今回はごめんね。もしよかったら、また別の時に〇〇(あなたの行きたい場所やしたいこと)に行かない?」
- ポイント: 誘いへの感謝を最初に伝え、断りの言葉を続けます。断る理由を正直に伝えつつも、相手への配慮を忘れません。次の機会に繋げる意思を示すのも良いでしょう。
例3:お店やサービスの利用時
- シチュエーション: レストランで、注文したものと違うものが出てきた。
- 小さなアサーション: 自分の注文を正しく伝える。
- 伝え方:
- 「すみません、ひとつよろしいでしょうか。注文したのが〇〇だったのですが、こちら△△のようでしたので、ご確認いただけますでしょうか。」
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ポイント: 相手を責める口調ではなく、冷静に事実と自分の注文を伝えます。「〜のようでしたので、ご確認いただけますでしょうか」という丁寧な問いかけがスムーズです。
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シチュエーション: 店員さんに、探している商品の場所を尋ねる。
- 小さなアサーション: 自分の要望を具体的に伝える。
- 伝え方:
- 「恐れ入ります、この〇〇という商品はどちらにありますでしょうか。」
- 「△△のような機能があるものを探しているのですが、おすすめはありますか。」
- ポイント: 漠然と尋ねるのではなく、商品名や特徴などを具体的に伝えると、相手も対応しやすくなります。
小さなアサーションを実践するためのステップ
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「小さなアサーション」の機会を見つける: まずは、日常生活の中で「これは小さなアサーションを試せるかもしれない」と感じる場面を意識してみましょう。例えば、「コンビニのレジでお釣りの確認をする」「エレベーターで『開』ボタンを押しておくように頼まれたら、状況によって判断する」「家族に今日の夕食のリクエストをしてみる」など、本当にささいなことから始められます。
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「自分は何を感じているか、何を求めているか」に気づく: その場面で、自分が「こうしたい」「こうしてほしい」「これは難しい」など、どう感じているのか、何を求めているのかを素直に認識してみましょう。アサーションは、まず自分自身の内面に耳を傾けることから始まります。
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簡単な言葉で伝えてみる: いきなり完璧なフレーズを使おうとせず、まずは「〇〇したいです」「△△は難しいです」のように、主語を「自分」にして、シンプルに伝えてみましょう。
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練習する: 実際にその場で伝えるのが難しければ、まずは心の中で練習したり、信頼できる家族や友人を相手に練習したりするのも効果的です。
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結果を気にしすぎない: 最初はうまくいかないこともあるかもしれません。しかし、大切なのは「伝えてみた」という行動を起こしたことです。結果に完璧を求めず、試してみた自分を認めましょう。
「NOと言うことへの不安」に寄り添う
「小さなNO」であっても、「相手に悪く思われたらどうしよう」「自分の評価が下がるかも」という不安はつきまとうものです。しかし、考えてみてください。
- 相手もあなたを尊重する義務がある: アサーションは相手を尊重しますが、同時に相手にも自分を尊重してもらう権利があります。あなたの正当な要望や断りを理解してくれる関係であれば、小さなNOで関係が壊れることは少ないはずです。
- 正直さは信頼につながることも: いつもYESばかりで無理していると、かえって相手に不信感を与えたり、「あの人は何でも引き受けてくれるから」と不当な要求が増えたりする可能性もあります。自分の限界や正直な気持ちを伝えることは、誠実さとして受け取られることもあります。
- 評価は行動だけで決まるわけではない: 職場での評価は、断ったかどうかだけで決まるわけではありません。あなたが日頃どのように仕事に取り組んでいるか、チームに貢献しているかなど、多角的に判断されます。そして、自分の抱えられる範囲で質の高い仕事をするためには、時には断る勇気も必要です。
まずは、リスクの少ない小さな場面で、丁寧に、正直に伝える練習を重ねることで、「案外大丈夫だった」という経験が増えていきます。この経験が、大きな不安を和らげる一番の薬になります。
小さな一歩がもたらす変化
小さなアサーションを日常生活で実践していくことで、以下のような変化を感じられるでしょう。
- 心身の負担が減る: 無理な頼みを断ったり、自分の気持ちを少しでも表現したりすることで、抱え込みすぎていたストレスや疲労が軽減されます。
- 自己肯定感が向上する: 自分の気持ちを大切にできた、表現できたという経験は、「自分には価値がある」という感覚を育て、自信につながります。
- 人間関係の質が向上する: お互いを尊重するコミュニケーションが増えることで、より健全で対等な人間関係を築けるようになります。
- 時間やエネルギーを有効活用できる: 断るべきことは断ることで、本当に大切にしたいことや、自分がやるべきことに時間やエネルギーを使えるようになります。
まとめ:今日から、できることから
「NOと言えない」という長年の習慣を変えるのは、簡単なことではありません。だからこそ、まずは大きな目標を立てるのではなく、日常生活の中の、ごく小さな場面でアサーションを試してみることから始めてみましょう。
例えば、今日の夕食で「〇〇が食べたいな」と家族に言ってみる。職場で、すぐに返事できない依頼に「確認して後で連絡します」と答えてみる。これらは、誰にでもすぐにできる「小さなアサーション」です。
小さな一歩を踏み出す勇気が、あなたを少しずつ、自分らしいコミュニケーションへと導いてくれるはずです。焦らず、あなたのペースで、今日からできる「小さなアサーション」を見つけて実践してみてください。その小さな積み重ねが、きっと未来の大きな変化につながります。