アサーションはじめの一歩

【今日から使える】感謝を伝えて丁寧に「NO」と言うアサーションの始め方

Tags: アサーション, 断り方, コミュニケーション, 人間関係, 感謝

なぜ、私たちは「NO」と言うのが難しいのでしょうか

「NO」と言うことに、罪悪感や不安を感じる方は多いかもしれません。特に、日頃お世話になっている上司や同僚、友人からの頼み事に対しては、「せっかく頼んでくれたのに」「感謝しているのに断るのは申し訳ない」と感じてしまい、つい引き受けてしまう。しかし、結果として自分の負担が増え、心身ともに疲れてしまうという経験はありませんでしょうか。

「相手に感謝の気持ちはあるけれど、今回は引き受けられない」――そんな複雑な状況で、どのように自分の意思を伝えれば良いのか悩むこともあるでしょう。この記事では、感謝の気持ちを大切にしながら、相手に配慮しつつも自分の意思を丁寧に伝える「感謝を添えるアサーション」について、具体的な方法と今日から実践できるステップをご紹介します。

感謝を添えるアサーションとは

アサーションとは、相手の権利や気持ちを尊重しつつ、自分の気持ちや考え、要求などを正直に、率直に、そして誠実に表現するコミュニケーションスキルです。単に「自分の意見を押し通す」ことではなく、相手との対等な関係を築きながら、自分自身を大切にすることを目指します。

そして、「感謝を添えるアサーション」とは、相手が何かを提案してくれたこと、自分に頼ってくれたこと、あるいは日頃の関わりそのものに対する感謝の気持ちを伝えた上で、依頼に対して「NO」と伝えるアプローチです。

なぜ感謝を添えることが有効なのでしょうか。それは、相手はあなたの協力や承諾を期待して声をかけてくれているからです。その期待に応えられない場合に、まず「声をかけてくれてありがとう」「頼りにしてくれてありがとう」という感謝の気持ちを伝えることで、相手は「自分の働きかけが無駄ではなかった」「自分の存在や依頼が肯定された」と感じやすくなります。これにより、たとえ依頼を断られたとしても、頭ごなしに否定されたという印象を与えにくくなり、その後の関係性をより良好に保つことにつながります。

感謝を添えるアサーションの構成要素

感謝を添えて丁寧に「NO」と伝えるアサーションは、いくつかの要素を組み合わせることで成り立ちます。基本的な構成は以下の通りです。

  1. 感謝の表現: 相手の依頼そのもの、または日頃の感謝を伝えます。「お声がけありがとうございます」「いつも頼りにしていただいてありがとうございます」など。
  2. 依頼内容の確認(任意): 依頼内容を正確に理解していることを示します。「〜の件ですね」「〜の資料作成についてですね」など。
  3. 率直な意思表示: 依頼を引き受けることが難しい状況であることを伝えます。「大変ありがたいお話なのですが、今回はお引き受けするのが難しい状況です」「申し訳ありません、今は対応が難しいです」など。ストレートすぎず、しかし曖昧でない表現を心がけます。
  4. 理由の簡潔な説明(任意): なぜ引き受けられないのか、簡潔な理由を添えることで、相手は納得しやすくなります。ただし、詳細すぎる言い訳は避けるべきです。「生憎その時間は別の業務で手一杯でして」「既に別の締め切りのあるタスクを抱えておりまして」など。正直かつ簡潔に伝えます。
  5. 代替案・建設的な提案(任意): 可能であれば、代替案を提示したり、協力できる範囲を示したりすることで、相手への配慮を示すことができます。「〇〇さんであれば対応できるかもしれません」「もし〇日以降であれば、少しだけお手伝いできるかもしれません」「今回は難しいですが、また別の機会であればぜひ」など。これは必須ではありませんが、より協力的姿勢を示す際に有効です。
  6. 再度感謝や申し訳なさを伝える(任意): 最後に重ねて感謝の気持ちや、力になれないことへの申し訳なさを伝えて締めくくります。

この要素を全て含める必要はありません。状況や相手との関係性に応じて、柔軟に組み合わせることが大切です。

職場での具体的なフレーズ例

職場で上司や同僚から依頼された場合の具体的なフレーズ例をいくつかご紹介します。

ポイントは、「感謝」を最初に伝えることで、あなたの言葉に耳を傾けてもらいやすくなることです。そして、「NO」の理由を簡潔に、正直に伝えることで、相手に納得感を与えられます。

感謝を添えるアサーションを今日から始めるステップ

「感謝を添えるアサーション」は、特別なスキルではなく、少しの意識と練習で誰でも身につけることができます。今日から始めるための簡単なステップをご紹介します。

  1. 小さなことから試す: いきなり重要度の高い依頼や断りにくい相手に対して試す必要はありません。まずは、些細な頼み事や、断りやすい相手から始めてみましょう。「〇〇してくれてありがとう。でも、これは少し難しいかな。」など、短いフレーズから試してみてください。
  2. フレーズを準備しておく: 突然依頼された時に慌てないよう、「お声がけありがとうございます。ただ、今は難しいです。」といった基本的な感謝+NOのフレーズをいくつか頭の中で準備しておきましょう。
  3. 理由を考えすぎない: 詳細な理由を説明する必要はありません。「別の予定がありまして」「少し立て込んでおりまして」といった簡潔な理由で十分な場合が多いです。正直さが大切ですが、全てをオープンにする必要はありません。
  4. 声に出して練習する: 実際に誰かに話す前に、一人で声に出して練習してみましょう。鏡を見ながら、あるいは録音して聞いてみると、自分の話し方や表情を客観的に確認できます。
  5. 完璧を目指さない: 最初はうまくいかないこともあるかもしれません。相手に少し気まずい思いをさせてしまうこともあるかもしれません。しかし、それは自然なことです。完璧を目指すのではなく、「まずは感謝を伝えることを意識する」「今日はNOと言えた」といった小さな成功を積み重ねていくことが大切です。

「NO」と言うことへの不安に向き合う

感謝を伝えて丁寧に断ったとしても、「やはり相手に嫌われたらどうしよう」「評価が下がるのではないか」といった不安が頭をよぎるかもしれません。

しかし、考えてみてください。全てのお願いを引き受けてキャパシティを超えてしまい、結果的にパフォーマンスが落ちたり、締め切りを守れなくなったりすることの方が、あなたの評価を下げる可能性が高いのではないでしょうか。また、いつも「YES」と言う人よりも、時として「NO」を言える人の方が、「この人は自分の状況を理解している」「無理なことは無理だと言える正直さがある」と、かえって信頼を得られる場合もあります。

そして、感謝の気持ちを丁寧に伝えることは、相手への敬意を示す行為です。相手も感情を持つ人間ですから、一方的に断られるよりも、丁寧に理由を説明され、感謝の気持ちを伝えられた方が、受け入れやすいと感じるはずです。一時的に残念に思われたとしても、あなたの誠実な態度は必ず相手に伝わります。

まとめ:感謝を添えるアサーションで自分と相手を大切に

「NO」と言うことは、決して自分勝手なことではありません。それは、自分の時間、エネルギー、そして心の健康を守るために必要な、大切な自己主張です。そして、感謝を添えるアサーションは、その自己主張を、相手への配慮を忘れずに行うための強力なツールとなります。

今日から、小さな依頼からで構いませんので、感謝の気持ちを言葉にして伝えてみてください。そして、「今回は難しい」という自分の正直な気持ちを、丁寧に伝えてみてください。最初は勇気がいるかもしれませんが、一歩踏み出すことで、あなたはきっと、不必要な負担から解放され、自分自身をもっと大切にできるようになるはずです。そして、相手との関係性も、より健全で対等なものへと変わっていくことでしょう。

アサーションの最初の一歩として、この「感謝を添える断り方」を、ぜひ試してみてください。あなたのコミュニケーションが、より心地よいものになることを願っています。